医療過誤の法律相談は、事案の概要をおうかがいし、調査を依頼されるかの判断材料を提供する場となります。診療記録の分析は、相談ではなく調査の段階で行いますので、あらかじめご了承ください。限られた時間の中で少しでも具体的なお話ができるよう、相談日の1週間前までに相談票のご提出をお願いいたします。
医療過誤は非常に専門性が高いため、損害賠償を請求する前に必ず調査を行います。特に複雑な事案では、当事務所だけでなく、他事務所の弁護士と共同受任させていただくこともありますが、弁護士費用は変わりませんのでご安心ください。
調査受任では、半年から1年ほどかけて、診療記録の分析、医学文献の収集、協力医の意見聴取などを行い、発症から転帰に至る医学的機序を明らかにするとともに、過失や因果関係の有無を検討していきます。たとえ医療機関が過失を認めていたとしても、その過失によって結果が発生したことを証明できなければ、医療機関の責任を追及することはできません。
調査の結果、医療機関の責任を追及しうると判断した場合、損害額を算定して受任通知を送付します。通常はこのタイミングで医療機関にも代理人が就任するため、その後の交渉は弁護士同士で進めていきます。また、医療過誤の賠償金は保険で支払われることが多いため、医療機関だけでなく、保険会社や医師会の意向に交渉が左右されることもあります。
医療機関との交渉が決裂したら、協力医の鑑定意見書を用意して訴訟を提起します。医療訴訟は上訴率も高く、終結まで数年を要することも少なくありません。しかし、提訴、争点整理、証拠調べ、和解・判決といった手続の進行は、通常の訴訟と変わりません。
争点整理では、医療機関側が診療経過一覧表を作成し、患者側もこれに基づいて認否・反論を行っていきます。また、証拠調べの後、裁判所の医学的知見を補うため、中立な医師による鑑定が行われることもあります。東京地方裁判所では、三人の鑑定人を選任し、事前に簡潔な意見書を提出させたうえ、期日当日に口頭で議論するというカンファレンス鑑定が採用されています。
Q1.診療録や診療記録とは何ですか?
A1.診療録とは、医師が作成したカルテのことです(医師法24条)。これに対し、診療記録とは、診療録、看護記録、検査画像、手術動画など、診療の過程で患者の身体状況、病状、治療等について作成された一切の記録をいいます(平成15年9月12日医政発第0912001号)。
Q2.証拠保全を申し立てる必要はありますか?
A2.個人情報保護法によって、カルテ開示に応じない医療機関は少なくなっています。また、電子カルテは修正履歴が残るため、証拠保全が認められるのは、改竄を疑わせる具体的な事情がある場合に限られます。
Q3.協力医の謝礼はどれくらいですか?
A3.匿名の意見聴取であれば3万円~5万円、鑑定意見書であれば30万円~50万円ほど必要となります。
Q4.過失とは何ですか?
A4.過失とは、結果の発生を予見できたにもかかわらず、その発生を回避するための適切な措置を怠った注意義務違反をいいます。そのため、予期せぬ副作用や不可避の合併症が発生した場合、投薬ミスや手技ミスを問うことはできません。
Q5.医師の注意義務に基準はありますか?
A5.判例では、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準とされています。たとえ平均的医師が現に行っていたとしても、その医療慣行に合理的な理由がない限り、医療水準にかなった医療が行われたことにはなりません。
Q6.因果関係はどこまで証明する必要がありますか?
A6.判例では、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すれば足りるとされています。高度の蓋然性とは、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうることをいいます。
Q7.高度の蓋然性を証明できなければ責任は認められませんか?
A7.判例では、医療水準にかなった医療が行われていたら、患者が生存していた相当程度の可能性や重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性が証明されるときは、慰謝料を請求することができるとされています。